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2008年10月11日 (土)

「ソルヴェイグの歌」― 6

「・・・・・」

カルロスは顔をちょっとしかめて、ジンの味を確認するかのように山本の言葉を待った。

「カルロス、お前はアメリカって国を見たことがあるか。」

「いや。」

「俺は行ったことがあるんだよ。 ちょっと前までは、こう見えても商社マンでな。 ・・・だから、この戦争の先は見えているんだ。」

「日本が勝つとでもいいたいのか。」

「あはは、逆だよ。」

「じゃあ、なぜこんなところにいるんだ。」

「ソルヴェイグの歌を知ってるか。」

「ああ、たまにマリアが弾いている。 ペール・ギュントだろ。」

「うん、確かそういう曲だった。」

「それが、どうした。」

カルロスは、グラスにジンを足すと、丸太にゆっくりと腰をおろした。

「ペール・ギュントの話だ。 男ってのは勝手なもんだと思わないか。」

「なぜだ?」

「自分勝手な夢を見て、相手の正体も分からないのに、それを追いかける。」

山本は、日本刀を腰からはずすと、それをマンゴーの木に立てかけ、木彫りのちいさな椅子に「ふぅ~」と腰をおろした。

「君の母上はこの町におられるのか。」

「この町じゃあないが・・・。」

カルロスは言葉を濁した。 

   

「おいくつになられる?」

「46」

「俺の母はもう六十三でな。 四男坊なんだが、兄貴たちはもうこの世にはおらんのだ。」

「亡くなったということか。」

「中国戦線だ。 中国で夢を見過ぎたってことだ。 覚めない夢をな。」

「じゃあ、さっさと夢から覚めて、日本へ帰ることだな。」

カルロスは、煮豆を口に放り込みながら、乱暴に言った。

「そうしたいところだが、こういう夢は相当痛い目に合わないとなかなか覚めないらしい。 定期便の連中も同じようなもんだ。 真面目な奴ほど、夢を見る。 まさに夢中になるんだな。 定期便が来れば、それには応えないといけなくなる。」

「連中に撃たせるなと言っているのか。」

   

「夢をみるのはいいとしても、泣く人がいるだろうと言うことだよ。 アメリカと日本の喧嘩に巻き込まれて死んでもつまらんだろう。 所詮、植民地の奪い合いだ。 それに、フィリピン人同士までが傷つけ合ってなんになる。 夢としちゃあ、つまらん夢だ。」

   

いつの間にか、辺りの家々に灯がともり、マリアの家の窓にもカーテン越しにゆらゆらとした火が見え、女たちの声が聞こえる。 男達は、カルロスと山本を遠巻きにしてグラスを握りしめている。 そして、ピアノの音が聞こえてきた。山本にはその出だしの音だけでその曲であることが分かるようになっていた。

カルロスは薄暗くなった庭で、マリアとホセのことを思いながら、ピアノを聴く山本の姿をぼんやりと眺めていた。

(続く)

注: この話はフィリピン人の体験者から直接聞いた話を元に創作しております。

   尚、著作権は放棄してはおりませんので、ご留意下さい。

      

      

      

    

      

    

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コメント

高橋様、
稚拙な書き物をお読みいただき有難う御座います。
「戦場のピアニスト」は 残念ながら見たことがありません。そういう映画があったことは知っていましたが・・・。
一回毎に次はどう展開しようかと頭をひねっております。
何回で終わるのか、自分にも分かりません。
お付き合い下さい。
 

投稿: させ たもつ | 2008年10月11日 (土) 19時06分

興味深く読みました。 中学生の頃音楽室にあるドーナツ盤でソルヴェイグの歌をよく聴きました。 フィリッピン、旧日本軍軍人、グリ-グの
名曲と何とも奇妙な組み合わせか。映画「戦場
のピアニスト」のユダヤ人のピアニストとドイ
ツ人将校の出会いに似ていますね。続きを楽し
みにしてます。 さいたま市 高橋 

投稿: 高橋 | 2008年10月11日 (土) 15時53分

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