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2008年10月13日 (月)

「ソルヴェイグの歌」― 9

マリアの家の庭に生えている大きな火炎樹の下に老女がいて、マリアに何かを訴えるような勢いで泣いていた。 しかし、山本たちに気が付くと、キッと眼をむき、そそくさとマリアの家に入っていく。 

 

山本はマリアに敬礼をした。

「どうされたのですか。 あの方は?」

マリアは困ったような顔をした。

「なんでもございません。 今日のところは・・・」

山本は気まずい雰囲気に気が付いた。 手伝いの女達や甥っ子もまともに日本兵たちを見ない。

 

「カルロスに会えないだろうか。 すぐに会いたいんだが。」

マリアはしばらく考え込んだ様子だったが、

「分かりました。 後でうちの甥っ子を行かせますので・・。 あの男の子です。 小学校の司令部にいらっしゃいますか?」 と庭の隅にいる男の子を指差した。

「ああ、小学校だ。 出来るだけ早くお願いしたいのだが・・・。 山本と言えばわかる。」

「はい、そのように。」

   

甥っ子が司令部に山本を呼びに来たのは暗くなってからであった。

山本は早速マリアの家に出向いた。 その庭に、焚き火をしているカルロスが一人待っていた。 脇にはジンが置いてある。 もう、はいっている様子だった。

  

「呼び出して悪かったな。 急いでいるんだ。」

山本は頭を下げた。

「どういう話だろう。」

「一昨日の、あれは何だったんだ。 知っていたら教えてくれ。」

「俺は知らんよ。」

「そう言うな。 憲兵隊が動きだしたら、遅いんだ。 分かっているだろう。 フィリピン人同士が争うことになる。」

  

カルロスは、ジンをグラスに入れ、山本に差し出した。

「まあ、飲め。」

「それに、何故昨日も今日も攻撃してこない。」

「夢を見たい男がいるんだよ。 死ななきゃ覚めない夢を・・・。 しかし、もうバヨンボンでの攻撃はない。 しばらくはな・・・。」

  

フクバラハップ、通称フク団と呼ばれたゲリラは、バヨンボンがあるヌエバ・ビスカヤ州の南にある中部ルソン3州の州境の山村に生まれた。日本軍がフィリピンに侵攻し、軍政を敷いたのが1942年1月3日。そのすぐ後の3月に結成されたフィリピン共産党の抗日人民軍であった。 

敵の敵は味方。 共産軍ではあったが、アメリカはこのゲリラを利用し、戦後は弾圧することになる。

  

「昼間に婆さんを見ただろう。」

「ああ、何かあったのか。」

カルロスは山本にジンを勧めながら言った。

「エドウィンの母親だ。 エドウィンが死んだんだよ。」

「・・・・・」

「この前、俺の隣でなにも喋らずに蛙を焼いていた男だ。」

山本ははっとした。

「そうか、おとといの戦闘か。」 

   

(続く)

注: この話はフィリピン人の体験者から直接聞いた話を元に創作しておりますが、

あくまでもフィクションですのでご承知下さい。

   尚、著作権は放棄してはおりませんので、ご留意下さい。

   

  

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