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2008年10月12日 (日)

「ソルヴェイグの歌」― 7

マリアが「ソルヴェイグの歌」を弾くのには理由があった。 ハイ・スクールの学園祭の発表会で、マリアが弾いたピアノ曲に魅せられたホセは、ホセの音楽仲間にマリアを入れようと足しげく通ったのだが、その時によくマリアが弾いて聴かせたのがこの曲であった。 

 

そして、結婚し、ホセが志願兵として米比合同軍に参加した時にも、マリアは涙を隠しながらこの曲を弾いて見送ったのだった。 カルロスは死んだことになっているホセを、二年以上経った今でも待ち続けているマリアを哀れに思っていたが、敢えてその真偽を確かめようとはしなかった。

 

カルロスは同じ音楽仲間のメリアンと結婚するものと周囲の誰もが思っていたが、ホセが死んでからと言うもの、その噂はみんなの口先には乗らなくなっていた。 マリアがホセを待っているように、メリアンもカルロスが戻ってくるのを耐えて待っているのだと、女達には分かっていた。

 

マリアのピアノの旋律がゆったりと、か細くなってきた時、山本がゆっくりと立ち上がって椅子から離れ、庭の隅にある鬱蒼としたマンゴーの木の下に歩むのが見えた。 山本は、まだいくらか青さが残っている夕暮れの空に、マンゴーの木のシルエットを見上げて、しばらくそこに立っていた。  カルロスは山本の表情を見ることは出来なかった。 山本は帽子を深くかぶり直した。

「ヤマモト」

カルロスの低い声が山本のすぐ後ろに迫っていた。 そして、なにかの鋭い先端が山本の背中に突きつけられた。 山本の日本刀だった。

一瞬、山本は「しまった。」と思った。 しかし、警護の部下は塀の外である。

山本は静かに手を挙げた。 マリアのピアノはまだ庭に流れている。 男達は皆固唾を飲んで見ているだけで、身動きすら出来ない。

  

「ヤマモトさん。 危ないねえ。」

山本は、もう一度深く帽子をかぶり直すと、静かに振り返った。

「危ない、危ない。 ヤマモトさん。」

そこにはカルロスの静かな笑顔があった。

  

山本は、冷や汗をかきながら、笑おうとしたが、口が曲がっているのが自分にも分かった。

唖然とした山本の目もとに、カルロスは流れたものの跡を覗き見た。 

気づくと、マリアのピアノは終わって、女達の拍手が聞こえてきた。

カルロスは 日本刀を鞘に納めると、山本に手渡した。

  

庭にいた男達が安堵の歓声を挙げ、拍手をした。 家の中にいた女達が、何事かと顔を出す。山本は帽子を深くかぶったまま、庭を出た。

「帰るぞ。」

山本は、部下をどなりつけるように言い、さっさと歩き始めた。

  

翌日の定期便は、いつものようにやってきた。

しかし、ゲリラ側の攻撃は 昨日までのものとは違っていた。 今までよりも激しい攻撃だったのである。

(続く)  

注: この話はフィリピン人の体験者から直接聞いた話を元に創作しております。

   尚、著作権は放棄してはおりませんので、ご留意下さい。

    

  

  

 

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