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2009年11月25日 (水)

地元の若い女性が書いた山岳民族、首狩りのこと

私は日本語教師である。(時々忘れる・・・)

この仕事をやっていて面白いことは、生徒の地元の文化、あるいは日本の文化・風習との違いなどを教えられることであろう。

しかし、日本語を基礎の段階、あいうえお、から教えるのが常であるフィリピンに於いては、なかなかそういう事をやれる段階まで到達するのは時間がかかるし、難しい。

日本語を教えるということを、北ルソンのバギオで始めて4年半。 やっと、中級の日本語を教える機会に恵まれ、学習者が言いたいことを「作文」という形で読むことが出来るようになった。

入門や初級レベルでは、学習者もなかなか自分の言いたいこと、考えていることを日本語にするというのは困難であるから、まして、自分の国のことや、文化、伝統、慣習などを書くことは望めない。

今教えている若い女性たちは、これまでに400時間のコースを修了し、日本語能力試験3級レベルの知識を持って、さらに2級レベルを目指して750時間の学習を続けている。

さて、今中級の日本語を勉強中の彼女らに、毎週1回の作文とそれに基づくスピーチを課している。 題材はなんでも良いことにし、原稿用紙2~3枚を提出させる。

その一人は「山岳民族/イゴロットの人々」、もう一人は「カリンガという所とカリンガの人々」というタイトルで作文を書いてきた。

以下にその内容を、ご紹介したい。

ただし、作文そのままではなく、添削指導中に彼女らがどのような意図で書いたのかを確認した上での、内容の紹介である。

尚、彼女等自身はベンゲット州出身のイゴロットと日系人イゴロットで、いずれも二十代前半である。

以下、書き直して引用:

「山岳民族/イゴロットの人々」

ルソン島の北部地方、いわゆるコーディリエラ(山岳地域)と呼ばれる地方には、六つの民族が住んでいる。 すなわち、ボントック族、イバロイ族、イフガオ族、イスネッグ族、カリンガ族およびカンカナイ族で、その総称が イゴロットと言われている。

しかし、この「イゴロット」という名称は、近年、正式には「コルディリエラン」と変更する旨、議会で決定されている。

このコルディリエランの人々の仕事は、ほとんどが農業であって、野菜や花の栽培が多い。 じゃがいも、サヨテ(瓜に似ている)、キャベツ、レタスなど、フィリピンの低地では生産されない野菜類と、これまた低地では栽培ができない菊やバラなどの花である。

昔、およそ20年ほど前まで、このイゴロットと呼ばれていた人たちは、いわゆる「首狩り」と呼ばれる行為をしていた。 その為、この人たちはフィリピン国内でも、否定的に見られていた。 しかし、今は そのような風習・慣行はなく、農業や豚、牛、にわとりなどの飼育をしながら、平和に暮らしている。

そして、その伝統文化と独特な農業で有名になっている。

例えば、イバロイ族やカンカナイ族の民族のダンスや、イフガオの棚田である。 叉、これらの山岳民族の家族、親族の強い絆もよく知られている。

イゴロットの人々は、ルソン島北部の先住民族であり、豊かな伝統文化を持っている人々なのである。

イゴロットの若い人たちは、これらの豊かな文化や伝統を保護し、守っていかなくてはならない。

――――

もう一人の作文は 以下のとおり:

「カリンガという所とカリンガの人々」

カリンガという土地とそこの人々について、フィリピン人の多くは、恐ろしい、怖い、と思っているようだ。

私の祖父は、1980年代にカリンガ州で、兄弟とともに家を建て、農場を始めた。

その当時は、その農場の近くにはカリンガ族の住民は住んでおらず、数年前に近隣にカリンガ族の人たちも住むようになった。

その町には、いろいろな部族がいて、イロカノ族、カンカナイ族、イバロイ族、タリタリ族、そしてイバナグ族などが交じり合っていた。

私が子供の頃から、時々 拳銃強盗があっても、犯罪として裁判で有罪になることはなかった。

選挙の時などは、このカリンガ州では、時々政治家が殺されたりしているので、非常に危険な状態になる。

昔から、およそ20年ほど前まで、カリンガの人々は「首狩り」で知られていた。 私も、この噂は実話だと言う事ができる。 今でも、首狩りはないものの、銃やナイフでの殺人がある。

カリンガの男達は、人を殺すことを恐れない。 試合、あるいは競技のように考えているらしい。

殺せば殺すほど、その男は英雄になる。 カリンガの女性たちも、そのような男にあこがれるのである。

英雄となったカリンガの男は、大事な人間だとされ、周りがその男を守っている。

カリンガの悪いところは、結婚すると、女性は男性の二倍も働かされるというところだ。

伝統文化の話になると、カリンガは他の山岳地域の州の中でも一番である。

カリンガの伝統的衣装は、デザインがユニークで、だれもが高く評価している。

それに、カリンガの女性が、素焼きの壷を頭にのせて踊るダンスは素晴らしく、ダンスの競技会などに出ると、よく優勝する。 カリンガ族の誇りだと言ってもよい。

しかしながら、カリンガの人々の多くは、フィリピンの国の法律にあまり従わない。

彼らは、彼ら自身のルールを信じている。

その為、カリンガ州では、法律違反が日常的であり、警察もなにもしない。

警察官の多くが、早死にするとも言われている。

叉、政治家も何もしない。

実は、私もカリンガの人々は怖いのです。

しかし、もちろん、カリンガの人々が全て悪いということではありません。

――――

以上が、地元の若い女性が書いた作文の内容です。

二人の女性の現状認識は 分かれていますが、 後者の方が、実際に 具体的な例を知っているところを見ると、部外者から見れば やはり怖いのでしょう。

合田濤(ごうだ・とう)氏の著書

首狩りと言霊-フィリピン・ボントック族の社会構造と世界観

(平成元年初版)には その序章に以下のような記述がある。

―――

筆者自身、1986年にボントックを再訪したとき、あるムラで、前年にカリンガ族のムラに教師として派遣されていたムラ人が、政府軍のスパイと誤解されてカリンガ族に殺されたため、バギオに出てきたカリンガ族の村民を殺してその血讐を果たしたと言って真新しい下顎の骨を見せられた。 ・・・

この地域では過去十五年の調査のあいだに、確認しただけで六件の首狩り事件が起こっている。 ボントック族にとって、首狩りは象徴的な行為であると同時に、現実の政治過程に存在する紛争解決の一手段なのである。

ただし、このことからボントック族を<野蛮>で<未開>な民族と結論づけるのは誤りである。

・・・同じ人口あたりの犯罪(首狩りを犯罪と考えるとして)発生率としては少ないと見なくてはならない。

首狩りの恐れは、むしろ殺人に対する抑止力として働いているのである。

―――

以上が、日本語教室での生徒の作文と参考書籍の内容ですが・・・

人間関係が希薄となり、地域が人を育てる力もなくなり、学校でのいじめがはびこり、異常な殺人事件など枚挙にいとまがない「先進国」に、あるいは、イデオロギー叉は人権、正義を振りかざし、英雄を造り上げ、政府が何万人もの軍隊を他国に送り込む「先進国」に、この「首狩り」を云々する資格があるだろうか・・・ むしろ、学ぶべきかもしれない。

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この本は 既に絶版となっているようですが、中古本として手に入るようです。

私もAmazonnで手に入れました。

 

 

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