「私の家に日本人の幽霊が出たんです。 それで引っ越し・・・」
看護師で、日本語を勉強している若い女性が こう言った。
「10年くらい前の話なんですけどね、私が家族で住んでいた家に 日本人の、日本兵ですね、その幽霊が出たんですよ。」
「だれが見たの?」
「私にははっきりとは見えないんですけど、私の兄は第三の眼があるもんだから、よく見えるんです。」
「御両親も見たの?」
「いいえ。 兄が学校から帰ってきたら、家の中にその幽霊がいたんです。 それで、両親に、お客さんが来てるよ、と言ったら、 親は、そんな人いないよって・・・・」
「・・・で、どんな日本兵?」
「一人は、普通の日本兵なんですけど、凄くおしゃべりなんです。 よく兄が自分の部屋で その幽霊としゃべってました。 だから、うるさくってしょうがなかった・・・」
「もう一人はどんな?」
「多分、司令官かなにかだと思うんです。 刀を下げていたから。 ・・でも、その幽霊は頭がないんですよ。 首から下だけ。」
「その家って、どこにあったの?」
「ブギアス(Buguias)です。 それで、引っ越したんです。」
「ブギアスって、あのハルセマ(ボントック)道路から東にちょっと入ったところ?」
「ええ、そうです。 引っ越したって言っても、3軒隣の お婆ちゃんの家に みんなで引っ越したんですけどね。」
「へえ~。 その近くじゃ、そういう話は他にもあるの?」
「はい、先生。 ボコド(Bokod)の女の人が 幽霊から逃げるために マニラに引っ越してしまったんです。」
「ボコドって、アンブクラオ・ダム湖の東岸にある町?」
「ええ、そうです。 日本兵の幽霊だけじゃないんですけど、あまり頻繁に その女の人のところに出てくるんで、耐えられなくなって 逃げ出したんです。」
「はあ、それで、その女の人って 何歳くらい?」
「そうですね、もう大学を出ているくらいの歳です。」
「聞くところによると、日本兵の幽霊は 日本語を話すらしいね。」
「ええ、だから、何をしゃべっているのかは 分からないんです。」
「その、おしゃべりな日本兵は なにをしゃべっていたんだろうね?」
「それは 分からないですけど。」
「それで、もう一人の 司令官は?」
「ああ、その幽霊は、庭の、窓の外によく出てました。 しゃべってはいなかったな。 ささっと 通り過ぎるくらいで・・・・」
「日本兵の幽霊は、キリスト教の神父さんなんかは信用しないらしいね。」
「へえ、そうなんですか?」
「やっぱり、仏教の坊主じゃないと駄目らしいよ。」
「じゃあ、先生、仏教の僧侶になってくださいよ。」
「・・・・・・、そうねえ。 考えておくよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ブギアスという町は、バギオの北東、直線距離でおよそ50kmのところにあって、 ハルセマ・ハイウエイ(ボントック道)から 少し東に入ったところにある。
ボコドは、 バギオから東に直線距離で20kmほど行くと、アンブクラオ・ダムがあって、そのダム湖の東岸を、グレルの三叉路から 北に10kmばかり入ったところにある。
ダム湖の北岸に カバヤン村があるが、カバヤンからさらに北に進むと ブギアスに繋がっている。
つまり、バギオ - グレル - ボコド - カバヤン - ブギアス -バギオ と、この経路が アンブクラオのダム湖を 一周する形になる。
カバヤン村で 以前に聞いた話では、終戦の時に、カバヤン村を通って、ブギアス方面へ多くの日本兵たちが ボントック道路への坂道を登って行ったと言う。
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