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2010年9月25日 (土)

それぞれの事情・・・(ストーリーの裏側)

保がビクトリー・ライナーのバスに乗ったのは 午前10時であった。

バギオのバス・ターミナルからマニラのパサイまでは 二回あるいは三回の休憩時間を含めると7時間ほど掛かってしまう。

いつもなら深夜のバスに乗って早朝にパサイに着き、近くのホテルで朝食を済ませ、そのままエドサ通りのどんづまりの海辺にあるモール・オブ・アジアに行って、成田に飛ぶ時刻まで 時間を潰すのだったが、今回は珍しく福岡、長崎方面に行く。 この後の日本での忙しさを考えてマニラで一泊する気になっていた。

パサイのターミナルでバスを降りた保は、効きすぎの冷房対策に羽織っていたジャンパーを丸めてバックパックにねじ込み、そのバックパックを身体の前に抱えこみ、旅行カバンをバスの下から引っ張り出して、ターミナルの中にある いつも灰皿のある場所に行こうとした。

・・・が、バスの待合所へ入るその道筋に、今までは無かったに荷物検査のチェック・ポイントが出来ていて、警備員の女が立っているではないか。

「面倒だな。」

面倒なことがあるとすぐにめげる保は そのまま、そのチェック・ポイントの手前で タバコに火をつけた。

そして、数分後。

「あっ、しまった。」

携帯用灰皿が さっきバックパックにねじ込んだジャンパーのポケットの中だった。

そう、ここでもめげてしまう保だったのだ。

バックパックから またジャンパーを引っ張りだすのは 面倒だった。

かと言って、その場で その吸殻をポイッとするほどの度胸もなかった。

「・・・まっ、いいか。 ホテルに行く途中に 捨てるところもあるだろう。」

タバコの火を靴で踏み消すと、吸殻を指に挟んだまま、旅行カバンを転がした。

「タクシー、タクシー いらない?」

保は この声を無視しながら ターミナルの入り口を通り抜けようとした。

首を振りながら通り抜けると、今度は 子供が2~3人寄ってきて 

「タクシーいらないの?」、「荷物を運ぶよ、荷物・・・」

と付きまとう。

「すぐそこまでだから、いらないよ、いらない!」

周りの大人たちが、

「いらないってよ、いらないって。」

と子供に言っているのか、保に言っているのか・・・

ホテルまでは 歩いて数分の距離である。

エドサ通りは いつものように暑く、埃っぽく、行き交うバスやジプニーの排気ガスが溢れ、車道の隅にも、歩道にもゴミや吸殻が散らばっていた。

しかし、保は そんな猥雑な場所が嫌いではなかった。

好きというわけでもないのだが、所詮人間が一番汚いのだ、などと思っていた。

あまりに清潔な場所は 人間の住むところじゃない、と思うような男だった。

おそらく「面倒だな」と思う男の習性なのであろう。

保は 出来るだけ早く吸殻を捨てたかった。

そういう時に限って なかなか見つからないものだ。

旅行カバンを押し、転がしている歩道には、いくらでも吸殻が散らかっているじゃないか。

ポイッと捨てればいいものを・・・

「おお、あった、あった。」

歩道の脇に 壊れかけたダンボールに ゴミが入っている。

保は、そのダンボールの横を通り過ぎざまに、ちょっと身をかがめて ポイッと吸殻を投げ入れた。

吸殻は 狙い通り ダンボールの真ん中のゴミの上に ちょこんとのっかった。

「グ~~~!」

いきなり、右から 腹の出た男が 親指を突き出した。

保は なんのことだか分からず、一瞬怪訝な顔をした。

「ベリ~~、グ~~~!!」

男は ニコニコしながら、親指を立てて見せる。

サリサリ・ストアの前には 使い古した椅子に 痩せた女が座っていて、保に向って笑っている。

保は、やっと男の意図が分かると、顔がほころんだ。

だれが見ているか わからない・・・・。

 

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検察もすなるストーリーづくりというものを 素人もしてみんとて・・・

メルビンは その男が マニラのエドサ通りの猥雑で狭い歩道を、旅行カバンを引きずり、小さなバックパックを フィリピン流に身体の前に抱え込んで こちらに近づいてくるのに 早くから気づいていた。 コンクリートの路面からは 反射熱が その男を襲っていた。

その男が旅行者であることが一目で分かったのは、メルビンのサリサリ・ストアーから 二、三分の所に ビクトリー・ライナーのバス・ターミナルがあったからでもある。

そのターミナルへは、バギオからの直行便も来ていた。

しかし、バス・ターミナルで降りた乗客は ほとんどがタクシーを使うから、こんなところを旅行カバンを引きずって歩いている旅行者は珍しかった。

メルビンは 半ズボンにランニング・シャツの姿で、そのシャツをまくり上げて浅黒いビール腹を出し、仁王立ちのまま その男の様子を窺っていた。

メルビンの横には、日本だったら とっくの昔に棄てているだろう 古い木製の椅子に座った 痩せた妻が 手持ち無沙汰に エドサの人と車の流れをぼんやりと眺めていた。

メルビンが その男の様子に眼を奪われていたのには訳があった。

エドサ通りの車道にしろ、歩道にしろ、そこいら中にゴミが散らかっている。

メルビンは 自分の店の前の歩道を たった今 ほうきで掃いて、自分のテリトリーの歩道だけは 責任を果たした気分になっていたのだ。

そこへ視野に入ってきたのが その男だった。

旅行者らしいその男は、フィリピン人にも見えたが、おそらく中国系、シンガポールあたり、あるいは、もしかしたらここ数年増えたコリアーノかもしれない。

メルビンが一番気になっていたのは、その男が 吸いかけか、あるいは吸い終わったタバコを指に挟んで歩いていることだった。

メルビンの目には、その指の間にはさまったタバコの白が飛び込んできていたのだ。

椅子に座っていた メルビンの妻も、腹をさすりながら仁王立ちしている夫が、その視線の先に その男を捕らえていることは うすうす感じていた。

その男は、旅行カバンを転がしながら、車道と歩道の段差に気をつけながら、前方から来る歩行者をかわして、メルビンのテリトリーに入って来た。

すると、その男は バックパックがずり落ちないように左手で押さえながら、右手の指に挟んでいたタバコ、それは吸殻だったのだが、その吸殻を ポイッと歩道の脇に置いてある ひしゃげたダンボールの中に放り込んだ。

そのダンボールの中には、さっきメルビンが掃いたばかりのゴミが入っていた。

吸殻は そのゴミの上に その白さを輝かせた。

メルビンは、腹に当てていた右手を上げ、親指を立て、「グ~~~!!」と言った。

その男は 驚いたようにメルビンの方を向いた。

一瞬、まずいことをやったかな、という表情が その男の顔にはあった。

「ベリ~~・グ~~~!!」

メルビンは 満面に笑顔を作って、その男の目の前に 親指を立てて、突き出した。

妻のエミリーも 夫のその様子をみて、脇で顔をほころばせた。 内心、その男がどうするのか 気になっていたのだ。

その男は、ちょっと決まり悪そうに、しかし、表情を一変させ、笑顔で返してきた。

男は微笑むだけで、なにも言わずに通り過ぎていった。

メルビンが こんな男を見たのは 久しぶりだった。

いや、もしかしたら 初めてだったのかもしれない。

こんなに散らかり放題のエドサ通りで、自分のテリトリーのクリーン大作戦に 一人の理解者を得たような気分だった。

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